私の村では、もうずっと、不思議な現象が続いている。7月20日から8月31日までの時間を何度も繰り返し、その度に、未来からのゲストが訪れている。ピンク色の雲の超常現象と、村長の失踪事件がきっかけとなったのは確かだが、理由はまったく解っていない。有名な物理学博士の理論でも、説明がつかない現象らしい。幸いなことに、同じ時間を過ごしていても、私たちの記憶は蓄積されていく。だから、新しいゲストが訪れるたびに、私たちは大いに刺激を受け、毎日を楽しく過ごせている。統計的に予測するなら、今度のゲストは、とても素敵な男の人だと期待できる。だから、いつもと変わらぬ暑い風景が、今朝はやけに清々しく感じる。

 ゲストを出迎えるのは私の役目。警戒心を抱かせないために、話し合いで、中学二年の女子である私に決まった。カチンとくるようなゲストもあったけれど、今回は大変名誉な役目に思えて、どきどきしながらバス停へ向かっている。停留所の屋根が白い光を反射し、そろそろ時間だと告げている。その上を、ちぎれた雲が優しい影を従え通り過ぎて行く。後を追いかけ、私はあの日のことを思い返した。

 ピンク色の雲の超常現象と村長の失踪事件。それは、この村の時間でみるなら、たった一ヶ月と12日前の出来事。しかし、私たちの記憶を通常の時間に換算するなら、ちょうど3年前の1975年の8月31日。最終便のバスが岩柿村のバス停に到着する頃。夏の終わりの太陽が、空を夏みかん色に染め出して間もない、5時15分頃のことだった。

プロローグ

© Karin Sonoyama / Sakoyan 2013