オーレ・ルゴイエ

デンマークの眠りの精。オーレ・ルゴイエが現れるのは、夜中になっても寝付けないでいる子供の部屋。靴下しか履いておらず足音を立てずに現れるから、家の者には誰にも気づかれない。二本のコウモリ傘を両脇に抱え、動くたびに色の変わる不思議な光る絹の服を着た姿で子供の前に登場する。オーレ・ルゴイエは、まずは子供の目にあまいミルクを差したあと、首筋の後ろに静かに息を吹きかける。どんな子供でも、この眠りのおまじないをされると、とたんに寝りに付いてしまう。次にオーレ・ルゴイエは、その子が良い子か悪い子なのかを瞬時に見分ける。良い子ならば色柄の傘を差し、悪い子の場合は無地の傘を差す。色柄の傘を差してもらった子供は、それから一週間、楽しい夢を見続けることができる。夢の中で、オーレ・ルゴイエといっしょにさまざまな冒険をさせてもらえるのだ。だけど、無地の傘を差された子供は、その間まったく夢を見ることなくぐっすりと眠る。

オーレ・ルゴイエには「死神ルゴイエ」と呼ばれる弟がいる。こちらのほうは、その名の通り、死者の国に人の魂を運ぶ永遠の眠りの精。死神ルゴイエは人間が死ぬ間際に、黒いマントを付けた姿で馬に乗って登場する。そしてその人間の過去を見抜き、良い人間だった場合は馬の前に、悪い人間だった場合は後ろにまたがらせる。そうやって死神ルゴイエは人間の魂を死者の国まで運ぶという。魂を運んでいる時に、前の人間には楽しい話を、後ろの人間には大変恐ろしい話を聞かせる。後ろにまたがった人間は、恐ろしさのあまりブルブルと震え、ずっと泣き続けるハメになるという。

ヤフー

ヤフーは、ガリバーの最後の冒険話に登場する生きもの。ことばをしゃべる馬の姿をしたフウイヌム族が支配する国に棲んでいる。全身が毛むくじゃらのサルのような生きもので、身軽ですばしっこい。赤、茶色、黒、黄色など、さまざまな毛色のヤフーがいる。凶暴性があり、仲間同士で争ってばかりいる野蛮な種族として、フウイヌム族たちから嫌われている。

墓場のブタと地獄の馬

デンマークの古い言い伝えによると、かつて、教会の下に生きうめにされたブタと馬が、三本足のユーレイになってどこかの家に現われると、その家では、かならずだれかが死ぬという。詳しいことは解っていないこの魔物たちは、「アンデルセン童話」に登場する。妖精というより、悪霊や死神の仲間なのかもしれない。

ラピュータ人

ジョナサン・スウィストによって1726年に発表された「ガリバー旅行記」は、主人公のガリバーが、小人の国や巨人の国で活躍する物語ばかりが目立っているが、ガリバーはそれ以外の国々にも訪れており、そこでさまざまな不思議な住民たちと遭遇している。 

ラピュータ人は、巨大な磁石の力によって空を飛ぶ島『ラピュータ』に住む人々。ガリバーの三番目の冒険話に登場する。彼らは皆、片方の目は上を、もう片方は内側をむいていて、右か左に首をかたむけ、いつも何か考えごとに熱中しているので、だれかに注意してもらわないかぎり、しゃべることも、人の話しを聞くこともできない。そのため、肩をたたいて考えごとを止めさせてくれる者が、いつも側に寄り添っている。

怪奇小説やガリバー旅行紀、不思議の国のアリスなど、 イギリスとアイルランドの物語には、たくさんの不思議なものたちが登場する。たとえば中世を舞台にした物語には、人間を救う妖精や勇敢な騎士と戦う伝説の怪物たちが登場し、ガリバー旅行記のように作者がつくりだした空想の物語には、作者自信が考え出した動物や妖怪たちが登場する。その中には、おそろしいものもいれば、やさしい怪物や、なんだかよくわからない正体不明の妖精までいて、どれも魅力的なものばかり。物語によっては主人公よりも目立ったりしている。

マーメイド

マーメイドは女の人魚の名称で、腰から上が人間、腰から下が魚の姿をした海の住民。海底に造られた宮殿に棲んでいるといわれている。ふだんは海で生活しているが、陸に上がっても、長い時間生き続けることができるので、たびたび、海辺の岩に腰かけて髪を櫛でとかす姿が目撃されたり、川をさかのぼって、湖で優雅に泳ぐ姿が目撃されたりしている。しかし、世界中の船乗りたちには、絶対に遭遇したくはない恐怖の魔物として恐れられている。なぜならマーメイドは、自分の若さを保つために人間の魂が必要で、その美しい姿で船乗りを海の中にさそいこみ、おぼれさせて魂を奪い取ってしまう、と信じられているからだ。しかし、中にはマーメイドに病気を直してもらったとか、願いごとをかなえてもらったという船乗りの伝説も残っているため、全てのマーメイドが恐ろしい魔物というわけではないようだ。それから、目撃されたマーメイドのほとんどは人間とほぼ同じ大きさだが、アイルランドには、50メートルを超える巨大なマーメイドが海岸に打ち上げられた、という古い伝説が残っているから、他の魚たちのように、人魚にも、さまざまな種類がいるのかもしれない。

マーマン

あまり知られていないことだが、実は、マーマンという男の人魚も存在する。世界中に残っている人魚伝説の大半がマーメイドばかりで、マーマンの伝説はわずかしかないし、目撃された報告もほとんどないから、人魚=マーメイドというイメージが、人々に定着したのだろう。目撃例がほとんどないのは、マーマンは人間に無関心で、船に近づくことも陸に上がることもめったにないからだといわれている。だからといって、マーマンがおとなしいというわけではないようだ。マーマンとマーメイドが結婚すると、マーマンはとても乱暴な夫になり、船によってマーメイドが傷つけられると、嵐を引き起こし,その船を沈めてしまうらしい。

グリフィン

昔からたくさんの伝説や物語に登場しているグリフィンは、頭と羽根と前足はワシで、胴体と後足はライオンの姿をしている。金鉱のある山の洞窟に棲み、金を守っているといわれている。凶暴そうに見えるが、性格はおとなしい。しかし、金を狙う者や、欲張りな者には、容赦ない攻撃を仕掛けるという。グリフィンはアジアやヨーロッパの民話、ギリシア神話などにも登場し、人間たちの宝物を守る怪物として大切にされた。

不思議の国の住民たち 1