遥か昔、巨大多国籍企業ヨツバグループが、太平洋上の島に壮大なテーマパークを建設しオープンさせた。「江戸ランド」と名付けられたそのテーマパークは、その名のとおり、細部にわたって江戸時代の町なみと風景を完璧なまでに再現しており、そのできばえは、訪れた客が、まるでタイムスリップしたかのような錯覚をおぼえるほどであった。


当時、世界規模で起こっていた日本文化の流行と、戦略的な宣伝効果との相乗効果によって、巨大台風接近による当日の悪天候と、高額な入場料にもかかわらず、「江戸ランド」はオープン初日から、10万人を超える人々が世界各国から集まった。


台風の多発地帯という立地条件の悪さを解消すべく、ヨツバグループは島全体を保護する強力なガードシステム「ネオ・プラズマシールド」を開発し、天候に客足が左右されないように設計していた。また、人件費削減のため、スーパーコンピュータ「SHOW-GUN」を開発し、江戸ランドの管理、運営、保護と、非常時の客の生命維持を任せていた。ヨツバグループにとって、このシステムが、人類を絶滅の危機から救うものになろうとは、もちろん予想していなかった…。


江戸ランドオープンから数ヶ月経ったある日、 水平線のあらゆる方向から光が突然瞬き始めると、島の外への通信網はいっさい不通になり、空は異様な紫の色に染まった。

その状況から、何らかの理由で、地球が壊滅するほどの大規模な核爆発が起こったと判断したスーパーコンピュータ「SHOW-GUN」は、ネオ・プラズマシールドをただちに作動させ、シールドレベルをマックスに設定すると、核汚染から江戸ランド全島を保護した。これにより、江戸ランドは世界で唯一、生命が生存できる場所となり、結果的に「SHOW-GUN」は、絶滅の危機から人類を救ったのである。


その後、江戸ランド内に閉じ込められることになった十万人余りの人間たちは、一部の人間によって結成された緊急特別治安部隊から、自由の少ない規則正しい日々を強いられた。そのため、江戸ランドの風景に同化するかのように、次第に江戸時代そのものの生活へと退化していった。


人間たちの生活の異変を察知した「SHOW-GUN」は、江戸ランド内のあらゆるデータをもとに計算し、このまま退化が続くと、やがて人類は、結局滅亡してしまうことを予測。なんとか退化を停止させる方法を探索し、得られた答えが、悪を故意に作りだし、人間たちの生活に刺激をあたえ続けることだった。


「SHOW-GUN」はまず、人間たちに治安維持の名目で「江戸ランド幕府」を設立することをアドバイスし、次に、自らシステムを改良し、「悪」を作り続けるサイドコンピュータ「DAIKAN-3-OS667」(以下DAIKAN-3)と、バランスをとるために「悪」を取り締まるサイドコンピュータ「TONOSAMA−OS680」 (以下TONOSAMA) を開発し、幕府内の一部の人間にしか知りえないように、幕府の組織の中に密かに組み入れたのである。

そうやって人類は、再び「SHOW-GUN」のおかげでなんとか退化を止めることができ、江戸時代の生活を維持するようになっていった。そして、時はあっというまに流れ、核爆発からすでに三百年の歳月が過ぎ、「江戸ランド」島は、「世界の終わりに生れた江戸の人々」という意味と、時の経過による訛りが重なって、いつのまにか住人たちから「エンドラーズ」島と呼ばれるようになっていた。


エンドラーズ島の悪人たちは、当初、「SHOW-GUN」の監視のもと、「DAIKAN-3」によって、控えめに作り出されていた。しかし、ある日突然、システムエラーによって「DAIKAN-3」が独立した意思を持つようになり、エンドラーズ島征服を狙って、絶えず悪人を作り続けるようになってしまった。「TONOSAMA」のシステムと、幕府の人間だけでは「 DAIKAN-3」の野望を阻止することができないと判断した「SHOW-GUN」は、伊賀忍術を使いこなす青年、寿 三九郎に白羽の矢をたて、彼を同心にするように、大老、杜若平八郎に指令を出した。こうして、はぐれ同心「寿 三九郎」を主人公にした江ン戸ラーズ捕り物帳は始まるのである。

 

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